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誰も愛せなくなってからは、 人の肌がこんなにも暖かいことを忘れていた。 もう元には戻れない。 甘えられる幸せを知ってしまったから。 根なし草 その日はどこの女の所に行く気にもなれず、カカシは適当な木の枝に腰掛けぼーっと月夜を眺めていた。 その日は任務帰りで、は一緒にいた仲間たちとは先ほど別れ家路を急いでいた。 そんな2人が偶然出会ったお話。 「寒いぃ〜早く家に帰って暖まろ。」 は最近特に冷え込んできた、この季節を恨みながらも早く家に帰ろうと、木から木へと飛び移っていた。 「あれ?誰かいる・・・?」 少し離れた木の上に人影を見たは、何の気なしに近づいた。 「あのーそこで何してるんですか?」 下からは、その人の顔が陰になってよく見えない。 里の人・・・だよね。 「何って・・・月。」 「は?」 「月見てるの。」 なんかこの人変なの。 「はぁ。あのー?」 「なに。」 「聞いた話じゃ今夜雪降るみたいなんで、早めに家に帰った方がいいですよ。」 じゃ、と言っては、凍える身体を早く温かい所に避難させるために、その変わった人と別れようと方向を変えようとした。 「帰るとこなんてないんだよね。」 「え?」 どうしたんだろ・・・見たかんじ忍だろうし、ホームレスって訳じゃないよね?閉め出しくらったとか? 「あの、帰るところがないって家がないって事ですか?」 「んーん、家はあるけど別に帰りたいとは思わないだけ。」 やっぱり変わった人だなー。 ほっといてもいいけど、そしたらこの人朝までこうやってそうだしな・・・。 凍死されても後味悪いし。 「あの、よかったら家来ますか?」 はこの発言を後から死ぬほど後悔する事になる。 だって、その人があのはたけ上忍だって分かってたら絶対にそんな事、口が裂けても言わなかったのに。 この日の私は寒さで思考が鈍っていたとしか考えられない。 その日はなんとなく女を抱く気になれず、そうすれば自然と足は人気のない所に向くというわけで。 この位置からなら、恐らく顔も満足に見えていないに違いない。 見ず知らずの男を泊めようという、なんともお人好しなこの女に少しだけ興味がわいた。 「じゃあ、今夜はオネーサンの家に泊めてもらおうかなー。」 そう言ってカカシは木から飛び降りて、の前に今度ははっきりと顔が見えるようにして立った。 「!!!!!」 「あれ?オネーサン、オレの事知ってるの?」 知ってるもなにも、目の前にいるこの人は里で超がつくほどのエリートで天才と有名なはたけカカシ上忍だ。 中忍で普段事務作業ばかりやっているでさえも、顔と名前くらいは知っている。 「は、はたけ上忍だったんですか・・・」 「それなら話は早いよね。じゃあオネーサン家に案内して。」 「あっ、あの!?やっぱり先ほどのお話は無かった事にして頂けませんか・・・?」 「どうして?そっちがおいでって誘ったんじゃない。」 誘ったって?!そ、そりゃそうですけど!!はたけ上忍が言うとそっちの意味にしか聞こえませんから! そんなの、私には無理ですって(汗) っていうか、私が家に呼んだのもそんな意味なんてこれっぽっちも含まれてませんし。 上忍のはたけカカシといえば、女たらしで有名だった。 毎日事務作業で暇をもて余している、噂好きのくの一たちにとっては格好の的でよく同僚たちの話題にもあがっていたため、 あまりそういう事に興味がないの耳にも少なからず入っていた。 その噂というのも、エリート忍者はたけカカシの隠れた顔ははとんでもなく美形、一度抱いた女の所には二度と出入りしない、 自分の話もほとんどせず名前すら覚えてもらえない子も過去に多々いるらしい。 そんなクールでそっけない、ミステリアスな感じが同僚たちいわくたまらなくいいのだそうだ。 そう思うのは同僚たちが例外という訳ではなく、 見事に里のくの一たちの乙女心をわしづかみにしているらしい。 そうやって毎夜カカシの寝床は確保されている、というものが大体だった。 それを同僚の1人から聞かされたは、特に興味も持てずふーんと言って流す程度だった。 私だったら、そんな人やだな。 ちゃんとお互いにたくさん色んな話をして、時にはケンカもしながら愛しあって2人で思い出を積み重ねていけるような人がいいなー。 と思っていたほどだったのだ。 それが、どこをどう間違ったらこんなことになってしまうのか。 これじゃあ、他の尻軽の女たちと一緒じゃない。 はたけ上忍だけは、私には無理です。 「あの・・・はたけ上忍だとは知らずに声をかけてしまって。自分の立場もわきまえずにすみません。 先ほどの事はなかった事にしてください。では、失礼します。」 家に転がりこまれでもしたらたまったもんじゃない。 私は、いくら美形でもそんな簡単によく知りもしない相手に股を開いたりするもんですか。 は自分の身体が冷えているのを思いだし、一方的に謝罪の言葉を述べ足早にそこから立ち去った。 しかし、しばらくして少し離れた所からカカシの様子を伺うと の事を特に気にする風でもなくはたけ上忍はその場に座りこんで、再び夜空をぼーっと見上げていた。 はぁ。気になっちゃうじゃない。 少し悪い事をした、と思ったのも事実で、初め噂に聞いた時はどれ程キザでヤなやつなのかと思っていたが、 実際の彼はそんな風でもなく噂が1人歩きしているのかも知れない、とは思った。 それに何よりもあの目がの心に引っかかっていた。 あの誰にも何にも興味がわかない、どうでもいいというような、寂しい空虚な目。 あぁ、もう! はカカシの元へ引き返した。 「・・・はたけ上忍。」 「あれ、帰ったんじゃなかったの?」 はぁ〜、とは盛大なため息をついた。 出来るなら、そうしたかったですよ。 「そんな所にいつまでもいたら、身体に障ります。」 「うん、そうだね。」 そう言うカカシの目を見て、は昔こっそり飼っていたあの捨て犬を思い出していた。 「そうだね、じゃなくてですね。」 「だって、帰るとこないんだもん。」 家帰っても1人だし。とさらりと言ってのけたカカシを見て、 はやっぱり。 と、帰る所を失ったあの時の捨て犬と、目の前の自分よりも数倍立場が上であるカカシとを失礼にも重ねていた。 っていうか、こんなとこにいつまでもいて風邪ひくよりもましでしょうが。 「家、来ますか。」 「??アンタさっきダメって言ったのに。」 「だってはたけ上忍、ほっといたらずっとそこにいますよね。」 「ん〜多分。」 「多分、じゃなくて。あぁ!もうまどろっこしい。失礼します!」 とはいつまでたっても掴み所のない、ひょうひょうとしているこの男とのやりとりが面倒になったのか 無理やりカカシの手をとって歩き始めた。 「!!!はたけ上忍、いつからあそこにいたんですか。」 掴んだ手は、どれだけ外にいればここまでなるのか、というくらいに冷えきっていた。 「んー時計みてないからわかんない。」 ・・・とりあえず、家に着いたら風呂にぶちこみ決定ね。 家に着くとすぐに風呂を沸かし、冷えきったはたけ上忍を浴室に押し込めた。 途中、もしやと思って尋ねてみるとやはり食事も満足にとっていないと言う。 ありあわせだったが、無いよりはましだろうと思い適当に自分の分と2人分食事を作った。 「お風呂、ありがと。」 「温まりました?」 「うん。」 素顔のはたけ上忍は、そりゃまぁ、カッコイイにはよかったが皆が騒ぎ立てる美形とはちょっと違う気がした。 「うまそうな匂いがする。」 すんすん、と鼻で匂いを嗅ぐ姿はやっぱり犬みたいだと思った。 「はたけ上忍、何も食べてないっておっしゃったので。ありあわせで申し訳ないですが一緒に食べませんか。」 「うん、食べるー。」 2人机をはさんで向かい合わせに座った。 はたけ上忍は丁寧に、いただきますと手を合わせてから食べ始めた。 のんびり、ゆっくりと食事をするはたけ上忍。 「もしかして・・・はたけ上忍って猫舌ですか?」 「うん、バレちゃった?」 「普段はどうしてるんですか?」 忍ならば時として早食いが必要な時もある。 「んーなるべく熱くなさそうなやつとかにする。」 そんなものあるのか、とは1人心の中で思い やっぱり変わった人だな、と再認識した。 地べたに座っている猫背なはたけ上忍の姿は犬というより猫に近いかもしれない、とぼんやり思った。 食事を終えた後、片付けをしようと思ったらはたけ上忍の髪の毛が濡れっぱなしな事に気がついた。 はドライヤーを手渡し 「髪の毛、濡れたままだと風邪ひきますよ。これ、使ってください。」と言うと、 「オレこれ苦手。」 と大人なのにびっくりするような事を言った。 しょうがないので、座ってもらい乾かしてあげた。 「はたけ上忍の髪の毛って細くて、柔らかい猫毛なんですね。」 「そうなの?」 髪を乾かされているカカシは、のなすがままで目を閉じて気持ちよさそうにしている。 やっぱり猫だ。猫決定。 「はい、出来ました。」 「ありがと。」 「いいえーじゃあ、私洗い物してきますから。はたけ上忍は適当にくつろいでてください。」 「はーい。」 そう言って、私はキッチンに向かい洗い物をしていたが、 しばらくするとはたけ上忍がやってきた。 「どうしたんですか?」 「・・・1人でいてもつまんない。」 構ってくれってことかな?はたけ上忍って、案外子供っぽいのかも。 はここ短時間で、カカシが噂の人物とはかけ離れている事に気がついた。 「じゃあー・・・食器、拭いてもらえます?」 タオル、そこにありますから。と言うと、はたけ上忍は静かに食器をふきだした。 「そういえば、」 「はい。」 突然はたけ上忍が話し出したので、少しびっくりした。 「名前、なんて言うの?」 「私ですか?」 「うん。」 会話が向けられているのは自分しかいない事はわかってはいたが、 あのはたけ上忍が自分の名前に興味を持った事がにわかに信じられなくて、思わず確認してしまった。 「・・・っていいます。」 「。」 「はい、そうです。」 「は、中忍?」 「はい、よくわかりましたね。」 「なんとなくね、ねぇ。」 「はい。」 「カカシって呼んでよ。」 「はたけ上忍を?む、無理ですよ?!」 いきなり何を言い出すのかと思えば、目上にあたるこの人を呼び捨てにしろというのか。 「いやーあの〜。」 「ダメ?」 「あぁ〜じゃあ・・・カカシさん、で。」 精一杯の譲歩だった。 そんな目で見ないでください・・・。 カカシにすがるような目で見られてしまっては、無下にイヤだとは言えないであった。 その後、明日もお互い仕事があるのでさっさと就寝準備を始めた。 客用の布団を引っ張りだしてきて、机をどかして狭い部屋になんとかスペースを作り、はたけ上忍にすすめた。 「一緒に寝ないの?」 「なっ!当たり前じゃないですか///私、そんなつもりであなたを部屋に連れてきたんじゃないんですよ。」 カカシさんは、どうして私がこんなに必死になっている様子が不思議なのか、きょとんとしていた。 「今までの女とは皆一緒に寝たよ?」 「他の人たちと一緒にしないで下さい。」 「は違うの?」 「違います、少なくとも付き合ってもないのに男女が1つの布団に入るなんてあり得ません。」 「ふーん、そういうもんなの?」 「そういうもんです。」 よくよく話を聞いてみると、カカシさんはただ単に人の温もりを求めていただけらしい。 寒いこの季節は特に。 そこを勘違いしたくの一たちは、勝手に抱かれると思いこみカカシを求めた。 そんな女たちをヘタに拒否しても面倒だと思ったカカシは、相手の望むように対応してきたのだが 一度相手にすると、過去には恋人を気取りだし女同士の厄介なもめ事にまで発展したことがあったため、 それからは毎回相手を変えていたのだと言う。 「じゃあ、そう相手の女の人に言えばいいじゃないですか。」 「一回言ったら殴られた。」 「・・・マジですか。」 「うん。別に痛くなかったけどね。」 女のプライドって恐ろしい。 避けようと思えばいくらでも避けられるそれを黙って受け入れるカカシの様子は、 さらに女のプライドをズタズタにしたに違いない。 「・・・何もしないって約束してくれますか?」 「え?」 「何もしないって、カカシさんが約束してくれるなら一緒に寝てもいいですよ。」 「いいの?あっ、あのくっつくのは・・・あり?」 「ヤラシイことしないならいいです。」 自分でも不思議に感じていた。 いくら話に聞いていたとはいえ、今日出会ったばかりの男の人と同じ布団で寝るなんて。 一度だした、もうひとつの布団をしまい一緒にのベッドに入った。 約束通り、カカシはを抱きしめるだけで朝まで何もしてこなかった。 次の日朝起きると、隣にいたはずのカカシさんはいなかった。 「任務・・・かな。」 黙っていなくなる姿は、やっぱり猫だ、とは頭の隅で思った。 噂が本当なら、カカシはもう二度とこの部屋にはやってこない。 ほっとしている自分と少し残念に思っている自分がいて、少し驚いた。 カカシさんとのことがあってから1週間が過ぎた。 あの日の事はの中では無かったことになっていたし、 相変わらず同僚たちの噂にあがる、はたけカカシとあの時の人はもしかしたら別人なのかもしれない、とすら思っていた。 なのに。 「カカシさん・・・。」 仕事を終え、家に居ると突然その人は現れた。 「、久しぶり。」 玄関で立ち話もなんだったので、とりあえず中に入ってもらった。 任務明けなのだろうか、あちこち汚れていたのでとりあえずお風呂に入れた。 「ーあたま。」 と言って前と同じ位置に座るカカシさんはやっぱり、あの時のカカシさんだった。 ドライヤーで髪の毛を乾かしている時のカカシさんは、猫が気持ちよくて喉をゴロゴロならしているみたいだった。 「はい、出来ましたよ。」 「ありがと。」 そのあとは、以前と同様ベッドに一緒に入りカカシさんに抱きしめられながらも少しだけ話をした。 「どうしてまた突然、家に?」 「ダメだった?」 「いえ、別に構わないんですけど・・・もう来ないと思ってました。」 「が来るなっていうならもう来ないよ。」 その時のカカシさんの瞳は、行き場を失ったあの時の寂しい、空虚なものだった。 「家でいいならいつでも来てください。その辺で、凍死にされても困りますからね。」 クスクス、とカカシさんは笑った。 あ、そんな顔して笑うんだ。 「っておかーさんみたいだね。」 「失礼な。私はまだそんな歳じゃありませんー。それを言うならカカシさんだって猫みたいですよ。」 「オレ?」 「はい、猫舌で猫背だし。フラッといなくなるかと思えば、突然現れるし。」 「にゃー。」 カカシはふざけて猫のなき声を真似しながら頭をの肩口にすりよせた。 「ふふふ、くすぐったいですよ。変わった野良猫が住み着いちゃいましたね。」 「しょうがないよー。、あったかいんだもん。」 「そうですか?」 人より体温が高いという訳ではないはずだが。 「うん、人がこんなにあったかいって・・・親父が死んでからすっかり忘れてた。」 あぁ、そうか。カカシさんのお父さんの話は、風の噂で耳にしたことがある。 きっとカカシさんはあれ以来、誰にも甘えず頼らず、 心を閉ざしてずっと表面上の付き合いを繰り返しながら生きてきたんだろう。 まるで・・・根なし草みたいだ。 どこにも根をおろさず、気の向くままにフラフラと地面をさまよう。 カカシさんの苦しみなんて、のほほんと暮らしてきた私には、きっとカケラも理解してあげられないのだろうけど。 「カカシさん?」 「なーに?」 「寒いときは、こうしてあたためてあげますから。」 「うん。」 「気のすむまで、家にいてくださいね。」 「ありがと。」 「でも、約束して下さい。」 「なーに。」 「出ていく時は、一言いってからにして下さいね。」 きっと。 愛着がわきだした危なっかしいこの野良猫を手放すのには、心の準備がいるだろうから。 「じゃあ、もオレが邪魔になったら言ってね?」 カカシさんの瞳に空虚が広がった。 「そんな事・・・言いません。」 「ホント?」 「本当です。一度決めたことは責任を持つ方ですよ、私は。」 カカシさんの瞳が、初めて満たされた色をした。 「じゃあ、ずっとの所にいる。」 カカシは、抱きしめていた腕をぎゅっと強め、嬉しそうにに頬擦りをした。 気まぐれな猫だから・・・どうだか。 こうして2人の奇妙な関係が、始まった。 しばらくして、女をとっかえひっかえすることで有名なあのカカシがある1人の女の所に落ち着いたらしい、 という噂が里中に男女問わず広がった。 それを、同僚たちが口々に囁きあうのをは知らないふりをして聞いていたとかいないとか。 寒い冬を過ぎても根なし草はしっかりと一所に根をおろし、 春にはきれいな花を咲かせていたことは、だけが知ることだった。 はい、久々の夢は連載そっちのけで読みきりですv いやー楽しかったぁ♪♪ 楓さんリクエストしていただいてありがとうございましたー 実はこの作品は、最近仲良くさせていただいているVanilla Creamの 楓様に リンクの記念に差し上げようと作ったものだったんです。 詳しくはダイアリーにて綴っておりますので、気になった方はドウゾ。 ちなみに根なし草の詳しいことは調べていませんので、すべてワタクシの捏造です。 だらしない、子どもっぽい感じのカカシ先生は連載とはまた違うタイプなので 書いてて楽しかったです。 ちょっと続きとか書いてみたいなーと思った作品でした。 読んでみたーい、なんて稀な方がいらっしゃいましたらリクエストしてみてください。 のしをつけて捧げますよw |